労働法コラム⑤退職強要の賠償責任―企業の責任が拡大?!―

 今年の初め,興味深い裁判例のニュースを知りました。退職強要を理由とする損害賠償請求事件です。
 この事件では,代表者が,従業員の1人に対し,根拠もないのに不始末をしでかしたとして,一方的かつ長時間,「会社にとって有用でない」などと批判・非難し続け,会社にいられなくし,退職を強要したということがまず問題になりました。このような行為が違法な退職強要にあたることはいうまでもありません。
 加えて,この退職強要の様子や処分の様子を見聞きしていた,同じ職場の従業員は,年齢も近いなどの事情もあって,自分達も同じような退職強要をされるかもしれないと思い,定年まで勤めたいとは思いつつ,自ら退職届を出しました。裁判所はこれを「間接的な退職強要」であると認定したのです。
 結局,会社は慰謝料として従業員4名に合計275万円を支払うよう命じられました(その他の請求も合計すると約660万円の支払いが命じられています。)。
 通常,暴言,暴行,嫌がらせによって退職を強要した場合には,パワハラの一種として,慰謝料等の請求されるおそれがあります。
 しかし,退職を強要された従業員のみならず,他の従業員に「自分も同じような退職強要を受ける」と感じさせた場合,そう感じて退職した従業員も慰謝料等を請求できるというのは,意外に思われるかもしれません。

 今回の事件はあくまでも退職強要の事件ですが,今後,パワハラ一般,さらにはセクハラ・マタハラ等を含むハラスメント一般に広がるおそれがあります。「自分もパワハラを受けるかも」「自分もセクハラを受けるかも」という恐れを抱かせた場合に,その恐れが社会的に無視できないほど現実的であれば,やはり会社の責任となる可能性があるのです。
 会社としては,予期しない範囲まで損害賠償責任が広がる恐れがあるため,ハラスメントを許さない断固とした態度(そして冷静かつ合理的な態度)をとる必要がますます高まったといえるでしょう。
 

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