医療コラム⑧パワハラ対策について~2020年6月の「パワハラ防止法」施行に備えて~
① パワハラの相談件数は右肩上がり
医療機関の皆様におかれましては、季節の変わり目で体調を崩して来院される方が多いと思われるのに加え、近日、大分市にてCOVID-19感染者が多数覚知されたことにより、日々激務にさらされていることと思います。そのような極限的な状態の中、どうしても精神的にも余裕がなくなり、注意・叱責もきつくなってしまいがちです。
近年、パワハラに関する相談件数は、右肩上がりで増えています。都道府県労働局に寄せられた「いじめ・嫌がらせ」に関する相談は、2012年度には相談内容でトップになり、いまや他の相談事由(解雇、労働条件など)の相談数を大きく引き離しています。2008年度に約3万2000件であった相談件数は、2018年度には約8万2000件と10年間で2倍以上に増えています。
② パワハラ防止法の施行
このような社会情勢を背景に、労働施策総合推進法が改正され、パワハラ対策を講じることが全ての事業主の義務となること、行政の指導に従わなかった場合に企業名が公表されることなどが規定されることとなりました。改正労働施策総合推進法(通称「パワハラ防止法」)は、大企業では2020年6月1日から、中小企業では2022年4月1日から施行されます。
パワハラ防止法に基づいて、企業が講じる必要がある義務は、具体的には、次の3つです。
① 事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
② 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③ 職場におけるパワハラに係る事後の迅速かつ適切な対応
この3つの義務について、形式的に対応するのではなく、実際にパワハラ防止の効果があがる中身のある対応をすることが大事です。それにより、職場におけるパワハラを根絶し、良好な職場環境をつくり、生産性やサービスの質の向上が見込めます。
③ 対応にあたってのポイント
① 方針等の明確化及びその周知・啓発
周知内容
- パワハラを行ってはならない旨の方針の規定
- パワハラの具体的な内容、発生原因、背景
- パワハラを行った社員には厳正に対処すること
- どのようなパワハラを行ったら、どのような懲戒処分を受けるか など
周知方法
- 就業規則など服務規律を定めた文書
- 社内報、パンフレット、社内ホームページ
- 研修、講習 等
本気でパワハラ行為を防止したいのであれば、規定には、具体的な行為を明確に各必要があります。例えば、「必要以上に長時間にわたり叱責してはならない」という規定の仕方ではなく、「60分以上の叱責はしてはならない」などと具体的に規定をすることです。部下がどんなに大きなミスをしても、60分もあれば伝えるには十分です。
周知・啓発も、形式的に1回だけ行うのでは、なかなか院内には浸透しないでしょう。情報発信の内容と量によって、従業員は、病院の本気度を見極めます。「絶対にパワハラをなくすんだ」という病院側の思いを込めた内容で、何度も繰り返し周知をすることが大事です。
② 相談窓口の設置
ガイドラインでは、相談窓口の設置が明記されています。
窓口への相談は、直接口頭でも良いですし、メールでも良いです。既に窓口を設置している企業では、まずはメールで相談が来る場合が多いです。相談窓口へのメールは、可能であれば、担当部署の複数人に転送される仕組みにしておいた方が、その後の対応を誤るリスクを減らすことができます。また、相談窓口の担当は、役職上位者でない方が良いでしょう。パワハラの加害者は、役職の上位者であることが多いので、相談窓口の担当者と横の人間関係があれば、揉み消されるリスクが生じます。役職が下位の者を相談窓口の担当者とすることで、相談がしやすくなるでしょう。
③ パワハラが起きた場合の対応
ア 事実関係の調査
大きな流れとしては、①相談者、②第三者(相談者や行為者と同じ部署などに勤務し状況を知っている人)、③行為者の順番でヒアリングを行います。ヒアリングの際に重要なのは、「事実」をはっきりと特定できるように聴き取ることです。5W1Hで、「いつ、どこで、誰が、何を、何のために、どうしたか」を特定できるようにヒアリングを行ってください。ただし、相談者が事実を的確に話せるようになるには、時間がかかることもあります。最初は、相談者の感情に配慮をし、相談者の話にじっくりと耳を傾ける姿勢でヒアリングを行い、その後、相談者の感情が落ち着いてきたら、時間をかけてできる限り具体的に事実を聴き取っていきます。
ヒアリングで聴き取った事項については、録音データなどの客観的証拠や第三者の証言などをもとに事実の認定をしていきます。相談者の被害の訴えが相当に誇張されている場合もあるので、ヒアリング内容の裏付けは慎重に取る必要があります。相談者と行為者の言い分があまりにも食い違っていて、客観的な証拠や第三者の証言から事実を認定できない場合は、正式な処分は難しくなるでしょう。
イ 懲戒処分と配置転換
パワハラの事実が認定できる場合には、就業規則の懲戒規定に則った懲戒処分や配置転換を検討します。
配置転換が可能な場合は、できる限り配置転換を行うのが良いでしょう。組織が小規模で配置転換が難しい場合には、せめて指揮命令系統を変更するなどして、できるだけ相談者と行為者の接触を減らす配慮措置を行いましょう。
④ おわりに
パワハラを根絶することで、職場の生産性も上がり、顧客サービスの質も向上します。パワハラ防止法の施行を機に、「パワハラ・ゼロ」の職場を作っていきましょう。
当事務所では、医療機関様のパワハラ防止法対応のサポート、院内向けハラスメント研修など、ハラスメントの根絶に向けたサポートをさせて頂いておりますので、いつでもお気軽にご相談ください。
(執筆 弁護士小島宏之)
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