メンタルヘルス不調者への法的対応の実務 

開催日時:平成28年4月27日

講師:弁護士 倉橋 芳英,弁護士 田中 良太


メンタルヘルス不調者への法的対応の実務

本講座の目的

①メンタルヘルスに関する法制度の基礎知識を学ぶ
②メンタルヘルスに関する過去の事例をもとに,メンタルヘルス問題の法的リスクを知る
③メンタルヘルス問題に対する具体的対策を学ぶ
 

1電通事件

【事実関係】
従業員であった訴外Aの両親が,入社から約1年5か月後に,Aが自殺したことの原因は,深夜早朝に及ぶ過重労働によりうつ病を発症し,その結果,自殺に追い込まれたもとして,会社に対し損害賠償を求めた事案。
(Aの平均残業時間は,カウントできるだけでも所定労働時間と同じ147時間にも及んでいた。)
 
【裁判所の判断】
Aの上司には,Aが恒常的に著しく長時間にわたり業務 に従事していること及びその健康状態が悪化していること を認識しながら,その負担を軽減させる措置を取らなかったことについて,安全配慮義務違反に基づく過失がある として,会社に対し,民法715条(使用者責任)に基づく損 害賠償として,1億6800万円の支払を命じた。
 
【最高裁が過失の認定の際に適示した事実】
①従業員が恒常的に著しく長時間にわたり業務に従事していることを認識していたこと
②従業員の健康状態が悪化していることを認識していたこと
③業務の負担軽減措置を採らなかったこと
 

2基礎的知識

①安全配慮義務
②労働契約法5条
③労働安全衛生法
 

2.2労働契約法5条

労働契約法5条
「使用者は,労働契約に伴い,労働者がその生命,身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう,必要な配慮をするものとする。」*使用者の安全配慮義務の明文化
 
【解説】
①「労働契約に伴い」とは,労働契約に特段の根拠規定がなくとも,労働契約の付随的義務として,当然に,使用者は安全配慮義務を負うことを明らかにしたもの。
②「生命,身体等の安全」には,心身の健康も含まれる。
③「必要な配慮」とは,一律に定まるものではなく,労働者の職務,作業環境,労務の提供携帯等の就労の具体的な状況に応じて必要とされる配慮を行わなければならないことを意味する。
 
労働基準法42条
「労働者の安全及び衛生に関しては,労働安全衛生法の定めるところによる」
⇒労働基準法と一体の法律
 
【特徴】
①多くの条文は罰則をもって担保する安全衛生の最低基準を設定 し,罰則でその効力を担保している。
②罰則のない努力規定も多く存在する
⇒第3条1項「事業者は,単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を眞持つだけでなく,快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するよう にしなければならない。」
 
第65条の3
「事業者は,労働者の健康に配慮して,労働者の従事する作業を適切に管理するように努めなければならない。」←電通事件で問題とされた条文
 

3実務対応

①採用時の対応
②採用後メンタルヘルス発症前の対応(予防)
③採用後メンタルヘルス発症後の対応
 

3.1採用時の対応

採用選考でメンタルヘルスについて尋ねた場合のリスク
【質問】
最近,入社直後に精神疾患を理由として欠勤する社員 が複数名いたため,当社は,採用時及び内定時に応募 者及び内定者のメンタルヘルスの状態を把握したいと考 えています。そこで,精神疾患に関する既往歴や現在の メンタルヘルスの状態について記載した文書を,応募者に履歴書等とともに提出させたりすることを検討しているのであるが,この場合,どのようなリスクがありますか。
 
【回答】
採用時の応募者に対する調査は,原則として企業の採 用の自由として認められるものの,応募者のプライバシー 権の侵害として不法行為を構成するリスクがあります。
そこで,申告内容を労働者の職業能力や業務適格性を 判断するのに必要な事項にとどめたうえで,応募者に対 してメンタルヘルスに関連する事項を申告させる意味を 十分に説明して実施する必要があります。
 
【解説】
・採用の自由(契約締結の自由)は,民法上の大原則・営業の自由 (憲法22条1項)という憲法上の権利に由来する自由
・他方,応募者のプライバシー権を侵害する可能性がある点に留意する。
・三菱樹脂事件(最判S48.12.12)
⇒採用時に応募者の思想・信条を調査しても違法ではないとされた。
 
【留意点】
・応募者に対してメンタルヘルスに関する事項を申告させる必要性について,明確にする。
⇒具体的な必要に応じて申告させる内容を決める
→・特にストレス耐性が要求される業務内容であれば,それに応じたメンタルヘルスの状態の申告をさせる。
・最低限の線引きをするという理由であれば,最低限のメンタルヘルス状態の申告で足りる。
・病歴などについては,1年以内に限定して申告させるなどする。
・応募書類等に,「採否の判断の一資料として用いる場合があること」,「採用後の人材活用の資料として用いることがあること」,「それ以外の用途には用いないこと」を明記する。
 
入社試験でメンタルヘルスの適正検査を行うリスク
【質問】
採用応募者に対し,入社試験の際にメンタルヘルス立て適正検査を行い,その結果によって採否を決めることとした場合,どのようなリスクがありますか。
 
【回答】
採用時の健康診断も使用者の採用の自由に基づく調査の一環として認められます。
しかし,メンタルヘルスの検査は,応募者のプライバシー侵害 の程度が大きいため,健康診断の内容,実施方法によっては, 不法行為として損害賠償請求されるリスクがあります。
したがって,職業能力や適格性を判断するための検査に限定すること,応募者に十分説明して同意を得ることが求められます。
 
【解説】
・採用の自由(契約締結の自由)は,民法上の大原則・営業の自由(憲法22条1項)という憲法上の権利に由来する自由
・他方,応募者のプライバシー権を侵害する可能性がある点に 留意する。
・三菱樹脂事件(最判S48.12.12)
⇒採用時に応募者の思想・信条を調査しても違法ではないとされた。
 
精神疾患と理由に内定取消はできるか
【質問】
内定者の1人が,うつ病で大学を長期間休んでいるという話を他の内定者から聞きました。採用面接時には,うつ病にかかっていた様子はありませんでした。この場合,うつ病になったという理由で,内定を取り消すことはできるのでしょうか。
 
【回答】
内定者が,現在,うつ病に罹患していることを確認したうえで,採用面接時にそのことを知ることが期待できず,また,うつ病に罹患していることで入社後の労務提供が困難であると認められる場合には,内定を取り消すことができます。
 
【解説】
・内定通知が採用の決定の意思の現れを認められるような場合に,内定 によって労働契約が成立したものと認められる。
・始期付解約権留保付労働契約
⇒・当同契約が成立するのは内定時
・就労義務や賃金支払義務が発生するのは入社時以降
・入社までに内定通知書又は誓約書に記載されている内定取消事由が生じた場合は契約を解除できる。
・内定取消ができる場合
⇒①内定当時知ることができなかった内定取消事由があること
②①の内定取消事由が客観的に合理性があること
 
【留意点】
・面接時に健康状態・既往歴について質問したり申告をさせたりする。
⇒内定時に知り得なかった事情となる。
・内定時に提出させる誓約書に内定取消事由として「採用時に明らかとならなかった健康状態悪化が認められた場合」と明記しておく。
・メンタルヘルス罹患の疑いが出た場合は,医師の診断を受けさせる。
・入社後の労務が困難である事情が確認できたら内定を取り消す。
 
 

3.2採用後の対応(予防)

メンタルヘルス発症の原因
①長時間労働
②セクシャルハラスメント
③パワーハラスメント
 
 
【主な対策】
①時間外・休日労働時間の削減
②健康管理体制の整備・健康診断の実施
③長時間労働者に対する医師の面接指導
 
①時間外・休日労働時間の削減
ア労働事件の適正な把握及び管理
⇒対策の前提となる。
⇒ICカード・タイムカードなど客観的に記録できるものが望ましい。
イ労働時間管理の目安
⇒厚労省の告示では,健康障害防止のためには月45時間以下の時間外労働とし,休日労働の削減に努めることが望ましいとされる。
⇒月100時間を超える時間労働・休日労働が続く場合には,恒常的な長時間労働と評価される。
⇒∴月80時間を目安として労働時間管理を行うことが不可欠
 
ウ適正な業務配分
⇒・管理者に指導を徹底する
・質量の両面から,業務の負担について配慮する。
エ時間外労働削減対策
・ノー残業デーの設定
・残業の事前申告制度
・管理職による指導強化
・評価制度に労働時間管理を取り込む
・改善提案,情報の共有化
・集中タイム
オ有給休暇の取得推進
 
②健康管理体制の整備・健康診断の実施
ア産業医及び衛生管理者の選任
⇒50人以上の規模の事業所は産業医の選任義務あり
⇒50人未満の規模の事業所は,地域産業保健センターの産業保健サービスの活用を検討する。
→大分県地域産業保健センター,大分産業保健総合支援センター
イ健康診断の実施
常時使用する労働者に対する1年に1回の定期健康診断など
 

セミナー実績

開催日時 セミナー内容(クリックで詳細に飛びます。)
2018.08.02 医療機関向け法務×経営シリーズセミナー
2018.07.12 バイク事故を巡る知っておくべき交通事故対応セミナー
2017.10.29 治療院向けセミナー 患者・スタッフ満足度UP 生産性向上経営実現セミナー
2017.10.24 保険代理店向けセミナー 相続セミナー
2016.11.15
2016.11.15 経営者・人事担当者向けセミナー 第1部 パワハラ・セクハラセミナー
2016.10.08 保険代理店向けセミナー ~人身事故 損害額の考え方~
2016.08.28 交通事故患者対応セミナー
2016.04.27 メンタルヘルス徹底対処法セミナー ~メンタルヘルス編~
2016.04.27 メンタルヘルス徹底対処法セミナー ~セクハラ編~
2015.05.20ほか マイナンバー制度 ~事業者の法的リスクと対策~
2015.02.28ほか 真の被害者救済交通事故業務改革セミナー2015
2014.11.16 全国の交通事故分野での注目事務所によるパネルディスカッション
2014.02.08 医療現場におけるクレーム対応の実務
2013.12.21 中小企業経営者に対する問題社員への対応アドバイスの仕方
2013.08.10 医療保護入院をめぐる法律問題
2013.07.20
2013.04.23 安全配慮義務違反と使用者責任
2012.12.21 企業経営における労務管理の重要性について
2012.11.24 精神保健福祉士と弁護士との連携について
2012.02.02 原発事故の損害賠償請求について(事業者向け)
2012.12.08 原発事故の損害賠償請求について(事業者向け)
2012.10.12 原発事故の損害賠償について(個人向け)


 

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