家族信託(民事信託)|
認知症になっても家族が財産を守り続ける仕組み
「もし親が認知症になったら、親名義の不動産の売却や銀行口座の解約ができなくなる」——このリスクを知っていますか?
認知症になると、本人の判断能力が失われるため、不動産の売却・銀行口座の解約・定期預金の解約・リフォームなどの「財産の処分行為」が原則としてできなくなります。成年後見制度を使えば対応できますが、費用・手続きの硬直性・裁判所の監督など、使いにくい面も多くあります。
そこで注目されているのが「家族信託(民事信託)」です。信頼できる家族(子など)に財産の管理権を移しておくことで、たとえ親が認知症になっても、子が親の代わりに財産を管理・活用し続けることができます。
家族信託・成年後見・遺言書
——何がどう違うのか?
認知症対策・相続対策には複数の手段があります。それぞれの特徴を正しく理解した上で、状況に合った組み合わせを選ぶことが重要です。
| 比較項目 | 👨👩👧 家族信託 | ⚖️ 成年後見 | 📝 遺言書 |
|---|---|---|---|
| 開始時期 | 意思能力あるうちに設計・契約 | 判断能力低下後に申立て | 意思能力あるうちに作成 |
| 財産管理 | 受託者が柔軟に管理・処分可能 | 後見人が保守的に管理(裁判所監督) | 効力は死後のみ |
| 不動産売却 | 受託者の判断で可能 | 原則、家庭裁判所の許可が必要 | 遺言に従い相続後に処理 |
| 身上監護 | 対象外(任意後見と組み合わせる) | 後見人が対応できる | 対象外 |
| 費用 | 設計・契約費用(数十万〜)+登記費用 | 申立費用+後見人報酬(毎月) | 作成費用のみ |
| 継続性 | 委託者の死後も設計次第で継続 | 本人死亡で終了 | 死後に一度発効 |
| 柔軟性 | 高い(設計の自由度が大きい) | 低い(裁判所の監督下) | 死後の財産分配のみ |
| 相性 | 認知症対策・財産管理・事業承継 | 認知症発症後の財産保全 | 相続財産の分配設計 |
家族信託の3つの登場人物と
「財産の二重構造」
家族信託には「委託者」「受託者」「受益者」という3つの当事者が登場します。
| 当事者 | 一般的な人物 | 役割・注意点 |
|---|---|---|
| 委託者 (いたくしゃ) | 財産を持つ親など | 財産を信託し、信託契約を締結する人。信託設計の主体。 |
| 受託者 (じゅたくしゃ) | 信頼できる子・孫など | 信託財産の管理・運用・処分を行う人。法律上の名義人になるが、あくまで受益者のために管理する義務を負う。自分の利益のために使うことは禁止。 |
| 受益者 (じゅえきしゃ) | 通常は委託者本人 | 信託財産から生まれる利益(賃料・売却代金など)を受け取る人。委託者が亡くなった後は受益者を子に変更するなど、二次・三次受益者の設定も可能。 |
家族信託の流れ(具体例)
| タイミング | 内容 |
|---|---|
| 設定時 | 父(委託者)と長男(受託者)が信託契約を締結。自宅不動産の登記名義が長男名義に変更される(ただし信託登記のため長男の個人財産ではない)。預貯金は「信託口口座」を開設して管理。 |
| 認知症発症後 | 父の判断能力が低下しても、長男が受託者として不動産の管理・売却・リフォームを継続できる。銀行口座の解約・預金の払い出しも信託口口座から行える。 |
| 父の死亡後 | 信託契約で定めた通り、受益権が次の受益者(例:長男)に移転。不動産の相続登記も信託の設計に沿って処理される。遺産分割協議なしで円滑に承継可能。 |
家族信託は「万能」ではない
——活用範囲と限界を正確に理解する
✅ 家族信託でできること
- 認知症発症後の財産管理継続
受託者(子)が不動産・預貯金の管理・処分を継続できる。施設費用の支払い・リフォーム・売却も受託者の判断で実行可能。 - 不動産の売却・活用
受託者が信託財産の不動産を売却・賃貸・担保設定できる。空き家の処分・老人ホームの入居費用捻出に有効。 - 二次・三次承継の設計
「父の死後は長男へ、長男の死後は孫へ」という多段階の承継先を遺言書より柔軟に設計できる(受益者連続型信託)。 - 障害のある子への長期支援
親亡き後も継続的に障害を持つ子の生活費・医療費の支払いができる仕組みを構築できる。 - 事業用財産・株式の管理承継
会社株式を信託財産とし、後継者に議決権行使を委ねながら収益(配当)は親が受け取るという事業承継設計が可能。
⚠️ 家族信託でできないこと
- 身上監護(生活・医療の決定)
財産管理はできるが、施設入所の契約・医療同意などの「身上監護」は受託者の権限外。身上監護が必要な場合は別途任意後見契約を組み合わせる。 - 相続税の節税効果は限定的
家族信託自体に相続税の節税効果はない。節税目的なら生前贈与・小規模宅地特例などを別途検討する必要がある(提携税理士と連携)。 - 信託できない財産がある
農地は農地法の規制により原則信託不可。一身専属権(年金受給権など)も信託不可。株式は定款制限に注意が必要。 - 受益者への課税
委託者と受益者が同一人でない場合、設定時に贈与税が課される可能性がある。税理士への確認が必須。
あなたの状況に近いケースをご確認ください
大分みんなの法律事務所が実務で対応している4つの代表的な活用ケースです。
CASE 01 認知症になる前に、自宅の売却権限を子に移しておきたい +
状況
75歳の父が「認知症になる前に、実家の管理・売却を長男に任せたい」と考えている。すでに物忘れが増えてきており、早めに対策したい。
家族信託で実現できること
- 自宅不動産を信託財産として、長男(受託者)・父(受益者・委託者)で家族信託契約を締結します。
- 不動産登記名義が「長男(信託)」に変更され、父の判断能力が低下しても長男が売却・管理を継続できます。
- 父が施設入所した際の施設費用捻出のための売却も、長男が単独で実行できます。
- 父の死後は信託契約に定めた通り長男が取得(または売却して分配)と設計します。
CASE 02障害のある子どものために、親亡き後の生活費を確保したい+
状況
知的障害がある次男がいる。親が亡くなった後も次男の生活費・医療費を継続的に支払える仕組みを作りたい。長男に管理を頼みたいが、兄弟間の公平性も考慮したい。
家族信託で実現できること
- 父(委託者)・長男(受託者)・次男(受益者)で家族信託を設計します。
- 父の死後も長男が信託財産を管理し、次男の生活費・医療費・施設費用を継続的に支払う仕組みを構築します。
- 信託財産から長男への報酬(受託者報酬)を設定することで、長男への負担を補償します。
- 次男が亡くなった後の信託財産の帰属先(長男・他の相続人など)も事前に設計します。
CASE 03賃貸不動産を子に管理させつつ、収益は自分が受け取りたい+
状況
80歳の母が賃貸アパートを所有している。管理は息子に任せたいが、家賃収入は母が受け取りたい。母が認知症になった場合にも賃貸経営を継続できるようにしたい。
家族信託で実現できること
- アパートを信託財産として、息子(受託者)・母(受益者・委託者)で設計します。
- 息子がアパートの管理(入居者対応・修繕・契約更新)を行い、家賃収入は母(受益者)に支払われます。
- 母が認知症になっても、息子が大規模修繕・建替え・売却を単独で判断・実行できます。
- 母の死後は、受益権が息子に移転する設計で相続をスムーズに処理します。
CASE 04会社の株式を後継者に引き継がせながら、収益は自分が受け取りたい+
状況
60代の会社経営者。後継者(長男)に経営を任せたいが、引退後も会社からの配当(収益)は自分が受け取りたい。また認知症対策も兼ねて準備したい。
家族信託で実現できること
- 会社株式を信託財産として、長男(受託者)・父(受益者・委託者)で設計します。
- 議決権(経営決定権)は長男が行使でき、配当収益は父(受益者)が受け取ります。
- 父の判断能力が低下しても、長男が株主総会での議決権行使を継続できます。
- 信託契約と合わせて遺言書・種類株式の活用も検討し、総合的な事業承継設計を行います。
家族信託の設計から完了まで「5ステップ」
弁護士への相談
家族の状況・財産の内容・希望する管理方法をヒアリング。信託の目的・信託財産・受託者・受益者・信託期間などを決定します。
即日〜信託設計・契約書作成
弁護士が信託契約書を起案。委託者・受託者の希望を反映しながら、法的に有効な内容を設計。税理士と連携して税務面も確認します。
2〜4週間公正証書化
信託契約書を公正証書にします(強く推奨)。公証役場で委託者・受託者が署名。弁護士が公証役場との事前協議・当日立会いをサポート。
1〜2週間信託財産の移転手続き
不動産は信託登記(提携司法書士が対応)。預貯金は「信託口口座」を金融機関で開設。株式は証券会社への手続きが必要。
2〜4週間信託の運用開始
受託者が信託財産の管理・運用を開始。受益者への給付・費用支払い・定期報告などの義務が始まります。弁護士が運用上の疑問に対応。
手続き完了後即時家族信託の費用の目安
| 費用の種類 | 目安金額 | 内容 |
|---|---|---|
| 弁護士費用(設計・契約書作成) | ●〜●万円 | 信託の複雑さ・財産の種類・信託財産の総額によって異なります。 |
| 公証人手数料 | 数万円〜 | 信託財産の評価額に応じた公証人手数料。 |
| 登録免許税 | 固定資産税評価額×0.3〜0.4% | 不動産を信託財産とする場合の登記費用。 |
| 司法書士報酬(登記) | 5〜15万円程度 | 提携司法書士が信託登記・信託変更登記を担当。 |
| 信託口口座の開設 | 金融機関による | 信託口口座の開設費用(金融機関によって異なる)。 |
家族信託に関するよくある質問
家族信託は誰でも利用できますか?
意思能力(判断能力)がある方であれば、年齢制限なく利用できます。ただし、認知症が進行して意思能力が失われた状態では契約できません。「少し物忘れが多くなった」という段階でもまだ間に合う場合がありますが、早めの相談をお勧めします。
家族信託に向いていない場合はありますか?
① 財産が少なく設計費用の方が負担になる場合、② 信頼できる受託者(家族)がいない場合、③ 農地や一身専属権など信託できない財産が主体の場合——は向いていないこともあります。状況を総合的に判断しますので、まずは弁護士にご相談ください。
信託した財産の税金はどうなりますか?
委託者と受益者が同一人(本人が委託者かつ受益者)の場合、信託設定時に贈与税は発生しません。ただし不動産取得税・登録免許税は発生します。受益者が変わる場合は贈与税・相続税の問題が生じます。必ず提携税理士と確認した上で設計します。
受託者(子)が信託財産を勝手に使ってしまう心配はありますか?
受託者は「受益者のために管理する義務」を負い、自分の利益のために使うことは法律で禁止されています(忠実義務)。また信託契約書で「報告義務・収支計算書の提出」を義務付けることや、受託者を監視する「信託監督人」を設置することで不正を防止できます。弁護士が信託契約書で適切な管理・監視の仕組みを設計します。
家族信託と遺言書は両方必要ですか?
多くの場合、両方の組み合わせが効果的です。家族信託は「生前の財産管理」、遺言書は「死後の財産分配」という役割分担です。信託契約で定めていない財産(信託財産以外)の相続については遺言書が必要です。弁護士がトータルで設計します。
途中で家族信託を変更・終了できますか?
はい。委託者・受益者の合意があれば変更・解除が可能です(信託契約に変更条件を定めておきます)。また受益者の死亡・信託目的の達成・信託財産の消滅などが終了事由になります。途中で変更したい場合は弁護士にご相談ください。
「認知症になってからでは遅い」
——今すぐ家族信託の相談を。
家族信託は設計・契約に時間がかかります。「そろそろ考えないと」と思い始めた今が、最も良いタイミングです。
大分みんなの法律事務所では、家族の状況・財産の内容・将来のビジョンをお聞きした上で、最適な信託設計をご提案します。初回相談は無料です。「家族信託が自分に向いているかどうか」の判断だけでも構いません。