遺留分は誰でも持っているわけではない——対象となる相続人と割合
遺留分とは、一定の相続人に法律上保障された「最低限の遺産取得割合」です。被相続人(亡くなった方)は遺言書で財産を自由に処分できますが、一定の相続人の遺留分を完全に奪うことはできません。
遺留分が認められる相続人と割合
| 相続人の構成 | 遺産全体に対する遺留分 | 各相続人の遺留分(例) |
|---|---|---|
| 配偶者のみ | 遺産の1/2 | 配偶者:1/2 |
| 子のみ | 遺産の1/2 | 子1人:1/2/子2人:各1/4 |
| 配偶者+子 | 遺産の1/2 | 配偶者:1/4/子1人:1/4 |
| 配偶者+直系尊属 | 遺産の1/2 | 配偶者:1/3/直系尊属:1/6 |
| 直系尊属のみ | 遺産の1/3 | 父母各1/6 など |
| 兄弟姉妹 | なし(遺留分なし) | 兄弟姉妹には遺留分が認められない |
遺留分侵害額の計算は「4つのステップ」で完結します
遺留分侵害額の計算式
① 遺留分算定の基礎財産を計算する
↓
② 遺留分額を計算する(基礎財産 × 遺留分割合)
↓
③ 実際に取得した財産額を計算する
↓
④ 遺留分侵害額 = ②遺留分額 − ③取得財産額(− 受遺者・受贈者の負担する債務額)
④ がプラスの場合 → 侵害額として請求できる金額
STEP 1:遺留分算定の基礎財産を計算する
「遺留分算定の基礎財産」は、単純な相続財産の合計ではなく、以下の式で計算します。
遺留分算定の基礎財産 = 相続開始時の積極財産(プラス財産)+ 生前贈与財産 − 相続債務(借金等)
- プラス財産:不動産・預貯金・株式・生命保険金(相続財産に含まれるもの)など
- 生前贈与財産:相続人への贈与(10年以内)、第三者への贈与(1年以内)
- マイナス財産:借入金・未払い税金・葬儀費用など
生前贈与の算入期間(2019年改正後の重要ポイント)
| 贈与の相手 | 算入期間(2019年7月1日以降の相続に適用) |
|---|---|
| 相続人への贈与(特別受益) | 相続開始前10年以内の贈与が基礎財産に算入(2019年改正で従来の無制限から変更) |
| 第三者への贈与 | 相続開始前1年以内の贈与が算入 |
| 当事者双方が遺留分権利者を害することを知っていた贈与 | 時期に関わらず全て算入 |
実際の数字で計算してみましょう——3つの典型ケース
【ケース①】配偶者+子2人 遺産3,000万円、全財産を長男に
前提:父が死亡。遺産:自宅不動産2,000万円+預貯金1,000万円=計3,000万円。遺言:「全財産を長男に」。相続人:配偶者(母)・長男・次男。生前贈与・借金なし。
- STEP 1:基礎財産 = 3,000万円(プラス財産)+ 0円(贈与)− 0円(借金)= 3,000万円
- STEP 2:配偶者の遺留分:3,000万円 × 1/4(法定相続分1/2 × 遺留分率1/2)= 750万円/次男の遺留分:3,000万円 × 1/8(法定相続分1/4 × 遺留分率1/2)= 375万円
- STEP 3:配偶者:0円/次男:0円(遺言で全財産が長男に)
- STEP 4:配偶者:750万円 − 0円 = 750万円/次男:375万円 − 0円 = 375万円
合計:1,125万円が長男に請求される金額(配偶者+次男の合計)
【ケース②】生前贈与があるケース 遺産2,000万円+贈与1,000万円
前提:父が死亡。相続開始時の遺産:預貯金2,000万円。長男は生前に父から1,000万円の贈与を受けていた(相続開始5年前)。遺言:「全財産を長男に」。相続人:長男・次男(配偶者は既死亡)。
- STEP 1:基礎財産 = 2,000万円(遺産)+ 1,000万円(長男への生前贈与・10年以内)= 3,000万円
- STEP 2:次男の法定相続分:1/2/次男の遺留分額:3,000万円 × 1/2 × 1/2(遺留分率)= 750万円
- STEP 3:次男が実際に取得した財産:0円
- STEP 4:次男の侵害額:750万円 − 0円 = 750万円
※生前贈与1,000万円が基礎財産に加算されたことで、遺産2,000万円だけで計算した場合(500万円)より250万円多く請求できる
【ケース③】不動産のみ・代償金が払えない場合
前提:父が死亡。遺産:自宅不動産のみ(評価額4,000万円)。借金なし。遺言:「全財産を長男に」。相続人:長男・次男(配偶者は既死亡)。
- 基礎財産:4,000万円
- 次男の遺留分額:4,000万円 × 1/2 × 1/2 = 1,000万円
- 次男の遺留分侵害額:1,000万円(長男に支払いを請求できる)
問題点と対処法:不動産しか遺産がない場合、長男には「1,000万円の現金」がない可能性があります。2019年の民法改正後、遺留分侵害額請求は「金銭」での支払いが原則です。長男が支払えない場合の対処法:
- 分割払いの合意(協議で分割払いスケジュールを決める)
- 代物弁済(不動産の一部持分を渡す合意)※双方の合意が必要
- 長男が不動産を売却して資金を調達する
- 長男が金融機関から借入れて支払う
- 裁判所に延払い許可の申立て(民法1047条5項)
内容証明郵便から訴訟まで——請求の進め方
| STEP | 手続き | 内容 | 期間目安 |
|---|---|---|---|
| STEP 1 | 弁護士相談 | 遺産の調査・遺留分の計算・時効の確認を行います。請求の可否・金額の概算をお伝えします。 | 即日〜 |
| STEP 2 | 内容証明の送付 | 弁護士名義で「遺留分侵害額請求書」を内容証明郵便で送付。これにより時効の進行を6ヶ月間停止できます(催告)。 | 数日〜1週間 |
| STEP 3 | 示談交渉 | 相手方と支払い金額・方法・期限について交渉。合意に至れば「合意書」を締結して解決します。 | 1〜4ヶ月 |
| STEP 4 | 遺留分侵害額請求調停 | 交渉不成立の場合、家庭裁判所へ調停申立て。調停委員が間に入り話し合いを進めます。 | 半年〜1年 |
| STEP 5 | 訴訟 | 調停不成立の場合は民事訴訟へ。裁判官が計算・証拠を検討して侵害額を確定します。 | 1〜2年 |
「1年を過ぎてしまったかもしれない」——まず時効の起算点を確認する
| 時効の種類 | 内容 |
|---|---|
| 短期消滅時効(1年) | 「相続の開始」と「遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った日」の両方を知った日から1年。どちらか遅い方が起算点。 |
| 長期消滅時効(10年) | 相続開始から10年。「遺言の内容を知らなかった」場合も、相続開始から10年で権利が消滅する除斥期間。 |
「遺言書の内容を知ってから1年が過ぎたかもしれない」と感じている方へ——起算点の解釈次第では、まだ時効が到来していない可能性があります。以下のケースでは起算点がずれる場合があります。
- 遺言書を発見したが内容を詳しく確認していなかった場合
- 遺言書に問題があり、その有効性を確認中だった場合
- 遺産の全容(特に生前贈与の存在)を後から知った場合